『市川鰕蔵の竹村定之進』
作者:東洲斎写楽
写楽の代表的な傑作で、寛政6年5月の河原崎座上演「恋女房染分手綱」に登場する役を描いた作品です。鰕蔵の顔は、とても印象的で、吊上がった眉と眉下の眼は、何かを物語り、何かを主張しているかのような、力を放っています。また、しわ寄せた口元から今にも声が、もれでてきそうで、顔全体の表情からは聞きしに勝る、すさまじい、役者の王者と言われた鰕蔵の偉大な芸風が生き生きと感じられる作品です。
市川鰕蔵は、5代目市川団十郎が、寛政3年に改名した名前で、鰕蔵は歌舞伎界きってのスターでした。登場した作品には鰕蔵の迫真の表情が見事に表現されており、人々に歌舞伎の魅力を伝えています。寛政8年には隠退し成田屋七左衛門と改名しましたが、その後も、求めに応じ、舞台に4回立ったという話が残っています。そして、惜しまれながら文化3年10月66歳で亡くなりました。